万一に備えて保険が必要?シングル女性だからこその悩みも?


「入院しましょう」。

それは突然の宣告だった。

東京都に住む会社員、城山妙子さん(仮名、33)は一瞬、意味がわからずに、ぽかんと口を開けた。

「入院って、あの、いつからですか?」と、たずねる声が裏返る。

院長は、パソコンのモニターに映し出された城山さんのカルテにキーボードで何やら書き込みながら言った。

「今日の夜、ベッド空けておきますから。いったん家に帰って、必要な荷物をまとめて、また来てください」。

入院?今晩から?でも、明日も取引先とアポイントがあるのよ。

仕事の納期は1カ月後なのよ

せめて、明日のアポイントだけでもすませてから…。

城山さんは「あの、明日の夜じゃいけませんか?」と、おそるおそるたずねてみた。

院長は回転椅子を4分の1ほど回して城山さんに向き直った。

「だめです。急性膵炎ですよ。症状がひどければ死ぬ場合だってあります。今晩から入院!」と、断固たる口調で一言う。

疲れと胃もたれが続くので受診を始めたのが1カ月前。

処方された胃薬を飲み続けても症状が改善しないので、尿検査と血液検査と超音波検査を立て続けに受け、結果を聞きに来たのがこの日だった。

ちょうどその日の朝から発熱し、だるい身体を引きずって診察室の椅子に座った。

しかし、まさか即日入院とは。

熱と驚きでふらふらと病院を出た城山さんは、ぼうぜんとタクシーを拾い、夢の中のような気分で自宅の鍵を開け、稼働率が普段の10分のlくらいに低下した脳みそで必死に考えた。

ええと、まず、必要なのは、パジャマに、下着に、カーディガンに、タオルに、歯ブラシ、歯磨き、化粧品と、眼鏡…

あっ、その前に、会社に電話しなきゃ。

いや、それより先に、明日のアポイントをキャンセルしなきゃ。

実家の親に入院を報告することを思いついたのは、入院手続きをすませて病室のベッドに横たわってからだった。

それから1カ月。

初めは24時間、水も飲めずに点滴につながれていた城山さんは、ようやく普通の食事がとれるまでに回復し、めでたく退院の日を迎えた。

食事制限はまだ続くものの、体力が回復すれば仕事にも復帰できる。

パジャマやタオル、入院中に増えた雑誌や本などを詰め込んだ大きなバッグをかかえ、心だけは軽くなって会計窓口に向かった。

だが、そこで渡された請求書を見て、城山さんの頭はまた真白になった。

30万円って。そんなにかかるの?

「あ、クレジットカードも使えますよ」と、会計担当の若い女性が明るい声で言った。

「えっと、じゃあ、ボーナス払いで…」と、城山さんは、財布からクレジットカードを引っ張り出した。

1カ月も休んでしまったけれど、ボーナス、もらえるよね…。一瞬、不安がよぎる。

こんな出費、想定がいもいいところだ。

考えてみれば、今回はまだ不幸中の幸い。

自分自身がまだ若いので、熱があっても入院準備ができたし、親も遠方の実家から見舞いに来てくれた。

これが親の入院や介護だったらどうなるだろう?

私がずっと付き添うには仕事を辞めなくてはならないだろう。

そうすると私は無収入になるの?

それは親も、かえって心配だろう。

私の代わりにだれかに付き添いを頼むのだろうか?

と、すると、やっぱりお金は必要…。

城山さんはタクシーの中で考え込んだ。

シングルって、緊急時にお金がかかるなあ。

そう言えば、シングルの友人が「万一のとき、1人者が頼れるのはお金だけだよ。だから、保険に入らないと!」と、力説していた。

私も何か入っておけば良かったかな…。

シングル女性が一番困るのは、何かあったときに物理的にも金銭的にも頼れる人がいないこと。

万一、自分や実家の親に何かあったとき、自分1人で問題を解決しなければならない。

「だから、シングル女性は保険に入りたがる傾向が強い」と、ファイナンシヤルプランナー(FP)の深田晶恵さんは苦笑いする。

入院したときの費用を補填したいから医療保険、働けなくなって収入が減ったときに家計を補填したいから所得補償保険、介護が必要になったときのために民間介護保険…。

万一の出費に備えるために、さまざまな種類の保険がシングル女性の脳裏をよぎる。

しかし、深田さんは「万一の準備は保険より現金で、というのが基本。保険金が確実にもらえるとは限らないのです。